カテゴリー: バーテンダー回顧録

E-E-A-T強化、体験談

  • カクテルの味は「音」で決まる。プロが語るシェイクの真髄と練習風景

    カクテルの味は「音」で決まる。プロが語るシェイクの真髄と練習風景

    華麗なシェイクの裏に隠された「地道な練習」

    バーテンダーの象徴とも言える、シェイカーを振る姿。
    その華麗なパフォーマンスの裏側には、地道で、時に孤独な練習があります。
    私自身、開店前や閉店後も、バーカウンターの鏡の前でひたすらシェイカーを振る日々でした。
    その目的は、単に「カクテルを冷やす」だけではありません。

    鏡で練習

    氷一つが語る「カクテルの完成度」

    シェイクの目的は「材料を混ぜ合わせ、いかに氷を溶かさず、カクテルを冷やすか」です。
    そして、この「いかに溶かさず」が最も難しい。
    そして何十杯も作る日常で後半も同じレベルで提供する必要があるため、体力、筋持久力も必要です。

    シェイカーに氷を満タンに入れ、その氷が完全に溶けるまで振り続ける。
    それが、私が最初に課された最低限の練習でした。
    さらに、シェイカーに氷を一つだけ入れて振る練習も欠かせません。
    このたった一つの氷がシェイカーの内壁をスムーズに回転する「感触」を指先に、そして「音」を耳に叩き込むのです。

    シェイカー満タンの氷

    「カンカン」ではダメ。「ゴロゴロゴロ」が理想の音

    私の持論ですが、シェイカーを振った時に「カンカンカン」と、氷が一方方向にぶつかる硬い音がするのは、まだ未熟です。
    本当に上手に混ざり合っているカクテルは、シェイカーの中で氷が大きな塊となって前後するのではなく、複数の氷がシェイカーのカーブに沿って「グルン、グルン」と立体的に回転します。
    その時に響くのは、氷が重なり合うような、まるで滝が流れるような「ゴロゴロゴロ」という、深く、連続的な音。
    この音を聞けば、中身の冷え具合、混ざり具合、そして氷の溶け具合が、ある程度はバーテンダーに伝わってくるものなのです。

    「基本」の先に生まれる、バーテンダーの個性

    カクテルによってシェイクの時間や強さ、混ぜ方も大きく変わります。
    しかし、この「氷の音を聞き分ける」基本さえマスターしていれば、あとはどんな個性的な振り方でも構いません。
    大きく力強く振る人、脇を締め祈るように振る人……。
    それぞれが目指すカクテルの味を追求し、独自のスタイルを生み出します。

    次にバーを訪れた際は、ぜひシェイクの「音」に耳を傾けてみてください。
    その音の中に、バーテンダーの技術と、カクテルへの想いが詰まっていることに気づくかもしれません。

  • 「おっ、通だな」と私たちが密かに感銘を受ける、お客様のさりげない振る舞い

    「おっ、通だな」と私たちが密かに感銘を受ける、お客様のさりげない振る舞い

    「通」とは、知識の量ではない

    よく「珍しいウイスキーを知っている」「カクテルのレシピに詳しい」ことが「通」だと思われがちですが、バーテンダーの視点は少し違います。
    私たちが「この人、通だな」と感じるのは、知識のひけらかしではなく、その場に馴染む「振る舞い」の美しさにあるのです。

    注文までの「間(ま)」が心地よい

    入店してすぐ、メニューも見ずに「マティーニ」と頼むのは、一見かっこよく見えます。
    しかし、本当の通はまず「お店の空気を読む時間」を大切にします。
    お絞りで手を拭い、一息ついてから、ゆっくりとメニューを開く。
    あるいは、バーテンダーが他のお客様のオーダーで忙しそうなら、そっと視線を外して待つ。
    この「待てる余裕」こそが、バーという空間を深く理解している証拠です。

    「味の変化」を楽しんでいる

    カクテルが提供された瞬間、すぐに飲み干してしまうのではなく、まずは一口飲んで、少し時間を置いてからまた一口。
    氷がわずかに溶けて味が開いていく過程や、手の温度で変化する香りをじっくりと味わっている姿を見ると、「お酒そのものと対話しているんだな」と嬉しくなります。
    私たちはその様子を見て、2杯目の提案をさらに高いレベルへ引き上げようと準備を始めます。

    マティーニを飲んでいるグラス

    グラスの置き方が静か

    これは非常に細かい点ですが、飲み終えたグラスをカウンターに置く際、音が全くしないほど静かに置くお客様。
    これは、バーの静謐な環境を壊さないという「周囲への配慮」であり、バーテンダーや他のお客様への敬意でもあります。
    その静かな「カタン」という音(あるいは無音)に、私たちはその方の品格を感じ取るのです。

    「任せる」勇気を持っている

    自分の好みを2〜3単語(「さっぱりしたものを」「今日は少し重めで」など)だけ伝え、あとは「お任せします」と委ねてくださる方。
    これは、バーテンダーの技術を信頼してくださっているというメッセージです。
    その信頼に応えようと、私たちは持てる知識を総動員して、最高の一杯を仕立てます。

    メニューを選ぶ

    結びに

    バーでの「通」とは、バーテンダーにとって「話しやすい、かつ、お酒を大切にしてくれる人」のこと。
    背伸びをする必要はありません。空間を楽しみ、お酒を慈しむ。
    その自然体な姿こそが、何よりも「通」に見える近道なのです。

  • 一流は「耳」で接客する。AIには真似できない、音から読み取るおもてなし

    一流は「耳」で接客する。AIには真似できない、音から読み取るおもてなし

    最高の技術は「手」ではなく「耳」に宿る

    バーテンダーに必要なスキルといえば、鮮やかなシェイクや豊富な知識を想像するかもしれません。
    しかし、私が10年のキャリアで最も大切だと感じたのは「聴く力」です。

    それは単にお客様の話に耳を傾ける「聞き上手」という意味だけではありません。
    プロのバーテンダーは、カウンターに響く「微かな音」ですべてを判断しているのです。

    氷の音で「おかわりのタイミング」を知る

    修業時代、先輩から厳しく指導されたのは「お客様のグラスを見ずに、中身の量を当てろ」ということでした。
    一対一なら目視で十分ですが、一人のバーテンダーが数十名のお客様を相手にする現場では、一人ひとりのグラスをじっと見つめるわけにはいきません。

    先輩の修行

    私たちは、お客様がグラスを置く瞬間の「氷の音」や、テーブルに触れる「音の響き」を聞いています。
    「カラン」と鳴る氷の高さ、重さ。
    それだけで残りの分量がわかります。
    目の前のお客様と会話を楽しみながら、視線を外さずに、別のお客様の空いたグラスへサッとおかわりを伺う。
    この「音による察知」こそが、バーにおけるスマートな接客の正体です。

    「こぽこぽ」という音に込める精度

    音の魔法は、お酒を作るときにも現れます。
    ボトルからお酒を注ぐとき、注ぎ口から聞こえる「こぽこぽ」というリズム。
    訓練を積むと、手の指にかかる比重とその音の間隔だけで正確な分量を注ぎ切ることができるようになります。
    会話を止めることなく、手元に全神経を集中させずとも、最高の一杯を作り上げる。
    それはマルチタスクが要求されるカウンターの中での必須技術なのです。

    AIには作れない「余白」を楽しむ場所

    最近、AIの進化により「バーテンダーの仕事がなくなる」という予測を耳にすることがあります。
    システムエンジニアとしても活動している私から見れば、確かにお酒を正確に調合するだけなら機械の方が効率的かもしれません。

    しかし、それは「頼みたいものが完全に決まっていて、液体にのみお金を払う」場合の話です。
    バーの価値は、お酒そのもの以上に「自分の状況を察してくれる空気感」や「予想外の会話」という、AIには数値化できない「余白」にあると信じています。

    ロボットによるカクテル

    音で空気を読み、心で応える。
    そんなアナログで不器用な、でも温かい場所を楽しみに、ぜひバーへ足を運んでみてください。

  • その一拭きが信頼を築く。ホテルバーの矜持が宿る「グラス磨き」の真実

    その一拭きが信頼を築く。ホテルバーの矜持が宿る「グラス磨き」の真実

    すべては「見られている」という意識から

    バーのカウンター内は、いわば舞台です。
    グラスを磨く姿すらも、お客様にとってはバーの風景の一部。
    だからこそ、バーテンダーは「真っ白なクロス」を手に、見られることを意識した所作でグラスを扱います。

    私の場合、左手でグラスの底をクロス越しにしっかりと支え、まずはグラスの周りを2周。
    そして右手の親指を使い、内側を丁寧に磨き上げていきます。
    最後にグラスを高く掲げ、光に透かして一点の曇りもないかを確認し、静かに棚へ戻す。
    この一連の所作が美しければ、お客様は「この人なら、きっと丁寧で美味しいカクテルを作ってくれる」と確信してくださるのです。

    掲げたグラス

    些細な「ミス」が招く、大きな代償

    もし、縁がわずかにチップ(破損)したグラスをそのままお客様に出してしまったら?
    それは単なる「不注意」では済まされません。
    ホテルのバーでは、自分から上司、そして管理職へと報告が上がる大問題に発展します。
    お客様にとって、その一杯は一日の、あるいは一年の大切な締めくくりかもしれません。
    たった数ミリの欠け、たった一つの拭き跡が、積み上げてきた信頼を一瞬で崩し去る。
    その重圧を、私たちは常に背負っています。

    磨きの甘さは「味」に出る

    「綺麗に見える」だけでは不十分です。
    例えば、ビールグラスの磨きが甘く、目に見えない油汚れが残っていたらどうなるでしょうか。
    状態の良いグラスであれば、飲んだ後にグラスの側面に美しい泡の層「エンジェルリング」が残ります。
    しかし、汚れがあれば泡は無残に弾けて消えてしまう。
    「たかがグラス磨き」と思うか、「されどグラス磨き」と向き合うか。
    何百とあるグラス一つひとつに、私たちは誠実さを込めていきます。

    エンジェルリング

    華やかなカクテルの背景には、こうした「裏方」としての徹底した準備があります。
    次にカウンターに座られた際、バーテンダーがグラスを磨く手に注目してみてください。
    そこには、お客様に最高の夜を届けるための、静かな誓いが込められています。

  • 4mmのレモンに魂を込めて

    4mmのレモンに魂を込めて

    華やかなカウンターの裏側、朝4時の静寂

    私のバーテンダーとしてのキャリアは、2010年、都内のある老舗ホテルから始まりました。
    バーカウンターのライトに照らされた華やかな世界に憧れて入ったその場所は、想像を絶する「職人の世界」でした。

    毎日、朝4時や5時に起き、誰よりも早く準備を整える。
    先輩たちの仕事を間近で見ながら、その一挙手一投足を盗み、指導を仰ぐ日々。
    カウンターに立つことは「目標」ではなく、厳しい修練の果てにようやく許される「聖域」だったのです。

    「カウンターから出される」という恐怖と、数百のレシピ

    バーテンダーとして独り立ちするためには、いくつもの高い壁がありました。

    • ・数百種類に及ぶカクテルレシピの完全暗記
    • ・1オンス(約30ml)を正確に注ぎ分ける「目切り(オンス切り)」の精度
    • ・シェイクやステアの技術。先輩や管理職からの厳しい承認。
    • ・そして何より、お客様との会話。

    「出ていいよ」 そう言われ、実際に会話についていけなければカウンターから出されることもありました。
    多種多様なお客様が訪れるホテルのバーでは、お酒の知識以上に「人間力」が試されていたのです。

    緊張のカウンター

    転機は入社2年目。初めて「お客様の口に入るもの」を

    入社から約2年が経った頃、ようやくサブとしてカウンターに立つことが許されました。
    しかし、そこはさらに過酷な戦場でした。
    レシピが少しでも曖昧だったり、提供が数秒遅れたりすれば、即座に交代させられる緊張感。

    そんな日々の中で、今でも鮮明に覚えている「初仕事」があります。それはカクテルではなく、添え物の「スライスレモン」でした。
    ホテルの美学において、スライスレモンの厚みが1mmでもズレれば、それはすべて廃棄対象。(絞りジュース行き)
    完璧なものだけが、お客様の前に並ぶことを許されます。

    「私が切ったレモンが、お客様の口に入る」 たったそれだけのことが、震えるほど嬉しかった。
    プレッシャーに押しつぶされそうな毎日でしたが、それ以上に、自分の手でお客様に何かを提供できる喜びが私を支えていました。

    一日数百杯の提供、そして今

    やがて独り立ちし、一日に数百杯のカクテルを作るまでに成長しました。
    ホテルマンとして、カウンター外の接客も含めた全方位のスキルを求められる環境は、私に「バーの本質」を教えてくれました。

    バーラウンジ

    話したいことは山ほどありますが、今回はこのあたりで。
    このブログでは、私が10年間の緊張感の中で培ってきた「お酒の真髄」や「バーの楽しみ方」を、少しずつ紐解いていければと思います。

  • The Bartender’s Memoirへようこそ

    The Bartender’s Memoirへようこそ

    初めに

    「バーの扉を開けるのは、少し勇気がいる。」
    かつてホテルのカウンターの向こう側で、私は毎日その瞬間を見てきました。
    重厚な木の扉、少し落とされた照明、そしてカクテルを作るシェイカーの音。

    はじめまして、hikです。
    私は長年、ホテルのバーテンダーとして多くの方に一杯のお酒を提供してきました。

    現在はシステムエンジニアとしてサーバの構築業務を中心に日々を過ごしていますが、心の中には今も、あのカウンターで磨き続けた「一杯の哲学」が息づいています。

    なぜ今、このブログを始めるのか

    コロナ禍を経て、私たちの生活スタイルは大きく変わりました。
    「外でお酒を飲む」という機会は減り、一人で、あるいは自宅で楽しむことが当たり前になりました。

    しかし、バーという場所には、家での一杯では決して味わえない「魔法」があります。

    それは、隣の人との適度な距離感だったり、プロが細部までこだわった氷の溶け具合だったり、あるいはバーテンダーとの何気ない会話だったりします。

    「バーの素晴らしさを、もっと多くの人に、もっと身近に感じてほしい。」 それが、私がこのブログ「The Bartender’s Memoir(バーテンダーの回想録)」を立ち上げた理由です。

    これからお伝えしていくこと

    このブログでは、初心者の方からお酒を愛してやまない方まで、皆様の夜を豊かにする「ひとつまみの知識」をお届けします。

    1. 初めてのバーでも迷わないためのエッセンス
      「最初の一杯は何を頼めばいい?」「バーテンダーと何を話せばいい?」といった、今さら聞きにくいマナーや楽しみ方を、プロの視点で優しく解説します。
    2. ご自宅での「至高の一杯」の作り方
      プロの技を、ご家庭でも再現しやすい形で。少しの工夫でいつものハイボールが劇的に変わる、そんな秘訣をシェアします。
    3. お酒のプロにも贈る「ひとつまみの話」
      ウイスキーの歴史の裏側や、カクテル言葉の深層など、次の一杯がもっと美味しくなるようなディープな話も綴っていきます。

    また、このブログは私自身で日々改修を行ってます。
    Webサイトの変化、成長もお楽しみいただければ幸いです。

    結びに代えて

    お酒は単なる飲み物ではありません。

    それは、忙しい日常をリセットするためのスイッチであり、大切な誰かとの絆を深めるためのツールです。

    かつて私がカウンターで受け取ってきたお客様の笑顔や物語を、今度はこのブログを通じて皆様にお返しできればと思っています。

    今夜も、皆様にとって良い一杯が見つかりますように。